社会福祉法人の会計情報

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1年基準による長期前払費用の振替処理と支払資金

会計基準関係

 群馬県のホームページ平成28年度指導検査等の実施結果が公開されています。群馬県の社会福祉法人の皆様は必ず目を通して同じ指導を受けないように注意してください。

 群馬県 - 平成28年度指導検査等の実施結果

 群馬県 - 平成28年度指導検査等の実施結果(こども未来部)

 ざっと読んでみましたが、他の自治体より読みやすい良い資料だと感じました。実際にあった事例に関して根拠や仕訳例などを示して丁寧に解説してあり、読むだけで大変勉強になると思います。

 ところで、この資料の中で、以下の事例は私とは少し考え方が異なりましたので紹介しておきます。

(群馬県 平成28年度指導検査等の実施結果より引用)


 事例5
 1年基準による振替処理が不適切
 固定資産の長期前払費用に計上している火災保険料を、1年基準にしたがって、流動資産の前払費用に振替処理を行いましたが、資金元帳の仕訳を行わなかったため、次の決算等式が成立していなかった事例がありました。
(決算等式)
 流動資産のうち支払資金科目-流動負債のうち支払資金科目
 =資金収支計算書の当期末支払資金残高

 

(中略)

 

 (2)一方、火災保険料の事例においては、少し複雑となっています。それは振り替え先の前払費用が支払資金科目となっているためです。したがって、この事例の場合については、本来は、次のとおりの仕訳を行う必要がありました。
 なお、原則的な処理方法は57頁の参考1を参照してください。

 (一般元帳)
 前払費用(B/S)×××/長期前払費用(B/S)×××
 (資金元帳)
 支払資金×××/長期前払費用振替収入(C/F)×××

 この事例の最後の資金元帳の仕訳を見ると、一年基準によって長期前払費用から前払費用に振替えた場合は、収入として支払資金の増加と認識しなさいと記載してあることになります。 

 そのような考え方もあると思われますが、私は、この資金元帳の仕訳は不要ではないかと考えました。

 根拠は、社会福祉法人会計基準第13条で、流動資産であっても1年基準によって固定資産から振り替えられたものは支払資金から除くとされています。ということは1年基準で固定資産・負債から流動資産・負債へへ振替えを行っても支払資金は変動しないことになります。

 社会福祉法人会計基準
 (資金収支計算書の資金の範囲)
 第十三条 支払資金は、流動資産及び流動負債(経常的な取引以外の取引によって生じた債権又は債務のうち貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものとして固定資産又は固定負債から振り替えられた流動資産又は流動負債、引当金及び棚卸資産(貯蔵品を除く。)を除く。)とし、支払資金残高は、当該流動資産と流動負債との差額とする。

 この点、先の事例5では「前払費用」は支払資金科目だからという理由で資金元帳の仕訳をすべきとしていますが、会計基準にはどの「勘定科目」が支払資金科目かは明示されていないのではないでしょうか。つまり、前払費用が支払資金科目だとは記載されていないような気がします。

 もちろん以下のパブリックコメントの結果として公表された「社会福祉法人新会計基準(案)に関する意見・回答(考え方)」の№97を見る限りにおいては前払費用は支払資金科目だと思われる節もあります。

「社会福祉法人新会計基準(案)に関する意見・回答(考え方)」より引用

 97 支払資金
 (ご意見)
 ・会計基準(注6)について、「ただし、支払資金として流動資産及び流動負債には、1年基準により固定資産又は固定負債から振り返られたもの・・・を除くものとする。」とあるが、これには、固定資産たる「長期前払費用」から振り替えられ、流動資産に計上される「前払費用」が含まれることになる。一方で、前払による支払額で貸借対照表日の翌日から1年以内に行われる役務提供に係るもの(例えば翌年度4月分の家賃の支払い)についても「前払費用」として会計処理がなされ、この「前払費用」については、支払資金と解されるため、結果として、流動資産に計上される前払費用には、「支払資金たる前払費用」と「支払資金から除かれる前払費用」とが混在することに
なるので、財務諸表の明瞭表示の観点から、勘定科目を別にするなどの対応を取るべきであると考える。

 (回答)
 ・日常的に発生するものではないので、勘定科目には記載してませんが、必要に応じ科目を追加してください。

 しかし、この回答は必要に応じて勘定科目を追加するように記載しているだけで、前払費用は支払資金科目だから1年基準で長期前払費用から前払費用に振替えた場合は収入として認識し支払資金を増加しなさいとまでは書いていないような気がします。

 この点は、同じ「社会福祉法人新会計基準(案)に関する意見・回答(考え方)」の以下の意見・回答も参考になります。

「社会福祉法人新会計基準(案)に関する意見・回答(考え方)」より引用

10 勘定科目
 (ご意見)
 ・1年以内に返済期日が到来するものについては、新会計基準では固定負債の部から、流動負債の部の各科目へ振替えるとのことですが、この場合、この際、資金収支計算書の勘定科目についてはどの科目を使用すればよいのか。
 (回答)
 ・会計基準(注6)にあるとおり、1年基準による固定資産(負債)から流動資産(負債)への振り替えは支払資金には影響しませんので資金収支計算書への記載は不要です。

13 勘定科目
 (ご意見)
 ・資金収支計算書と貸借対照表科目の整合性を図るため、貸借対照表科目のうち、資金収支科目でもあるものはその旨の表示をしていただきたい。

 (回答)
 ・支払資金の範囲は、基本的に流動資産から流動負債をマイナスしたものであり、範囲が限られているため不要と考えています。

 このように考えるとパブコメ№97で意見があったように、前払費用に性質の異なるものが混在することになりますが、それに対する回答が「必要に応じ科目を追加してください」ということですから、重要性がないなど必要と判断されなければ、科目の追加は不要とも考えられます。

 また、事例5では決算等式を科目レベルで定義していますが、支払資金科目が会計基準で定義されていない以上、勘定科目に縛られるものではないと思います。支払資金の定義である会計基準13条から決算等式は以下のようになります。

   期末支払資金残高=流動資産-流動負債
            ±流動資産・負債に計上された引当金
            ±1年基準で振替えられた流動資産・負債
              -貯蔵品を除く棚卸資産

 勘定科目にこだわらずに、前払費用を内容別に分解してこの計算をすると決算等式は成立するので問題はなのではないかと考えます。

 以上はあくまでも、未熟な私が勝手に考えただけですので、何の権威もありません。そんな屁理屈もあるのかと笑って聞き流していただければ幸いです。

 もちろん、群馬県の社会福祉法人の皆様は、きちんと県の指導に従うようにしてください。

 手元にある書籍を見てみましたが、残念がら長期前払費用から前払費用への振替えについて仕訳等まで含めて記載があるのは以下の書籍だけでした。

社会福祉法人会計の実務ガイド〈第2版〉 [ あずさ監査法人 ] 

 長期前払費用から前払費用に振替時、資金仕訳を行わない方法が記載されています。

社会福祉法人の会計実務改訂新版 [ 永田智彦 ]

 長期前払費用から前払費用に振替時、資金仕訳を行う方法が記載されています。

 興味がある方はご覧になってください。