会計基準関係
たまに無作為に選んで社会福祉法人の計算書類を見たりするのですか、賞与引当金を計上していない法人を案外見かけます。
税法のみを考えて決算を組んでいる中小企業は別ですが、会計基準が強制的に適用されるような大会社や非営利法人では賞与引当金はほぼ計上していると思います。指導監査も受ける社会福祉法人で、賞与引当金を計上していない法人を見かけるのは少し奇異に感じています。
おそらく、モデル経理規程に「重要性が乏しいと認められる場合には、これを計上しないことができる」という文言があるので、これを拡大解釈しているケースが多いのではないかと想像します。
モデル経理規程には徴収不能引当金にも同様の文言がありますが、徴収不能引当金の場合は貸倒実績がほぼ無いような法人では計算しても僅少になるケースがある為、重要性が乏しい場合もあると思います。しかし、賞与引当金の場合は、通常は金額的に大きくなるので重要性が乏しいということにはならないと思います。
社会福祉法人会計基準においても重要性の原則は当然適用されますが、賞与引当金と徴収不能引当金に関する条文に個別には重要性が乏しい場合引当金を計上しないことができるというような文言は付されていません。
社会福祉法人会計基準
(会計原則)
第二条 社会福祉法人は、次に掲げる原則に従って、会計処理を行い、計算書類及びその附属明細書(以下「計算関係書類」という。)並びに財産目録を作成しなければならない。
四 重要性の乏しいものについては、会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法の適用に際して、本来の厳密な方法によらず、他の簡便な方法によることができること。
(負債の評価)
第五条 負債については、次項の場合を除き、会計帳簿に債務額を付さなければならない。
2 次に掲げるもののほか、引当金については、会計年度の末日において、将来の費用の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を費用として繰り入れることにより計上した額を付さなければならない。
一 賞与引当金
二 退職給付引当金
三 役員退職慰労引当金
以前は指導監査でもほとんど指摘は無かったと思いますが、今は指摘の多い項目の一つになっていると思います。
例えばある自治体の平成28年度の指導監査結果を見ると、賞与引当金に関して下記のような指摘がなされています。特に1番上の未計上に関する指摘は多数の法人でなされています。
・平成27年度決算において、賞与引当金が計上され ていなかった。
職員賞与の額から当該年度の負担に属する賞与引当金の額は小額ではないため、透明性の確保の観点から計上すべきである。
平成28年度の決算より改めること。(社会福祉法人会計基準注解注19、社会福祉法人会計基準の運用上の取扱い等について18、法人経理規程第55条)
・賞与引当金に係る条文が経理規程から削除されている。経理規程から賞与引当金の条文を削除することは、会計基準に則しておらず適当ではない。速やかに経理規程に条文を記載し、平成28年度決算において賞与引当金を計上すること。(社会福祉法人会計基準第5条第2項、社会福祉法人会計基準の運用上の取り扱い18、社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項18)
・平成27年度決算において、賞与引当金が計上されているが、会計基準で規定されている金額を大幅に上回る額が過大計上されていたことが確認された。会計基準に基づく賞与引当金を計上し、平成27年度の決算修正を行うこと。また、決算修正に係る理事会議事録を提出すること。(社会福祉法人会計基準注解注19、社会福祉法人会計基準の運用上の取扱い等について18、法人経理規程第53条、社会福祉法人会計基準の制定について)
所轄によって温度差があるかも知れませんが、賞与引当金を計上していない法人はもう一度計上の要否を検討するべきだと思います。